インスピレーション
ARGOLFのパターにつけられた名前はアーサー王伝説にちなんだものと前回書きました。そしてアーサー王伝説はさまざまな説がありますが基本的には「円卓騎士伝説」と「聖杯伝説」の2つで構成され、そこからインスピレーションを受けた後世の作家が物語を発展させていった経緯があります。
唯一のチタン素材
GRAALはARGOLFのパターシリーズの中でも8番目にデザインされたものですが特異な位置にあるパターです。それは素材面から見ても明らかで、唯一チタン合金を使っている点、そして、そのデザインは明らかに聖杯をイメージさせる形でデザイナーとしてのオリバーが細心の注意を払ってGRAALを作り上げたことが見て取れます。
聖杯は英語ではHoly Grail、フランス語ではGRAALと表現されるもので、キリスト教では最後の晩餐で使われた盃であり、キリストが十字架に架けられ、槍で胸を刺された時に流れ出た血を受け止めた盃として特別な存在であり神聖であるが故に聖杯と言われる理由がそこにあるからです。
聖杯を持つものは強大な力を得る、と信じられることから聖杯を見つけ出し、手に入れることは支配者の願望であり、それは中世から近代まで続きました。
GRAALはある意味強さの象徴だったのです。
ゴルフ業界で唯一
オリバーはヘッド素材にチタン合金を使用することで自分がイメージする究極のパターを作ろうと考えていました。
チタンとは英語で表記するとTITAN(タイタン)です。これはギリシャ神話ではタイタンは巨大な神、強い力を持った神の名前で金属にTitaniumと名前が付けられたのは金属の中で最も強度があり、密度が低いことで軽くて、利便性が高いからです。
オリバーはチタンを使う理由として、- チタンは地球上で最も強い金属のひとつで高い引張強度を持ち、軽量で耐食性に優れ、極端な温度にも耐えられる素材である点
- 鋼鉄と同じ強度を持ちながら45%も軽く、アルミニウムの2倍の強度を持ちながら重さは60%しかないことで設計の自由度が高い点
- チタンは空気中で自然に形成される保護酸化膜ができることで、人の体液による腐食に強く身に付けても、体内に取り込んでも無害な金属で人に優しい点です。
しかし、チタンはこのように優れた特性を持つ金属だけに誰もが利用したいにものですが、加工が難しく特殊な技術や専用の機器、設備がなければ扱えないためにレア金属のカテゴリーに入り、そのために高価な金属なのです。
ゴルフ業界ではARGOLFだけが唯一この技術を持っていて製品化できることをオリバーは強調したかったのです。最強とされる素材を使ってパターをデザインすることはゴルフにおける「究極の武器」となるわけで、それで強力な力を持つと信じられている聖杯を意識してGRAALという名前をパターに付けたのです。
優れた武器は誰もが扱えることができ、その上で高性能でなければならない。左右対称のシメントリーデザインを採用することでトウとヒールに大きく重量配分をしてスィートエリアを広げ、操作性も考慮して浅めの重心深度、こうしてイメージしたものをスケッチすると盃の形になる。これがGRAALの基本デザインとなったのです。
そして、トップラインに付けられたマークは他のパターのそれと比べても特異なものです。GRAALに付けられたマークは航空機の姿勢制御を表すもので機体の左右の傾きをチェックするものですが、ヘッドの安定した動きを制御するためのもので、ターゲットをロックオンしてボールをカップに沈めることを意識してもらうために採用することにしたのです。
道具は作り手の想い、使い手の要望や想いが一致した時、最も道具としての機能を発揮するもので、GRAALは使い手の「究極の武器」として存在して欲しい、というオリバーの想いが込められたものなのです。
そのためにヘッドデザインを左右対称系のシンメトリーにすることでヘッドの重心点はヘッドの中心線の線上に位置することでヘッドのバランスは安定し、しかもフェイスのセンターに芯を設計できる。鉄よりも軽くアルミよりも重いチタンでヘッドをデザインするとなるとブレードタイプでは軽すぎ、マレットタイプだと重すぎてしまう。そのためにセミマレットタイプが適切です。
その中で優しさと調和を考えるとトウとヒールに大きく重量配分をしてスイートエリアを広げ操作性も考慮してやや浅めの重心深度、そして左右対称のシンメトリーデザインをスケッチすると盃の形になる。これがGRAALの基本デザインとなったからです。
これは私の推測ですが聖杯は歴史的に見てもその存在ゆえに常に色々な争いの中心的なものでした。だからこそ、オリバーはパターデザインに調和と優しさを込めたのだと思います。私は、このパターを初めて見た時、パターとしてヘッドの形やトップラインのマークが実践的でないような気がしていました。価格も他のパターの倍くらいのものでチタンを素材に使うこと自体珍しいものでした。
しかし、GRAALという名前をつけた意図を自分なりにいろいろ考えてみると、よく考えてデザインされたものであり、崇高な名前をつける意味がわかった時オリバーの意図をはっきり感じ取ることができました。
そして、もう一度GRAALを手にして細部までよく見ると全く別のパターに見えるから不思議です。やはり道具は作り手の想い、使い手の要望や想いが一致した時、最も道具としての機能を発揮するものだと改めて感じる。そういった意味からしてもGRAALは不思議なパターです。